戦争の幸運な余波

文字数 427文字

浅賀君?
 岬さんに誤解されるまいと、向こうからは見えるわけがないのに、ヨウコからは背を向ける。

ああ、何でもない、親父オフクロがさ……。

 電話の向こうで、クスっと笑う声が聞こえた。
妹さんに宜しくね。
 やっぱり、聞こえていたのだ。首だけ回してヨウコを睨みつける。
……。
 ムキになるか、しらばっくれるかと思いきや、なんだか寂しそうな顔をしていた。
あ、そうそう。
 思い出したように岬さんが言うのが聞こえて、僕は再びスマホに向き直った。こんな大事な話の後で、何か軽く付け加えられるのに、ちょっとガクっときていたりする。
……何?
今日、学校来なくていいみたいだよ。メール見て。
 それだけ言って、岬さんは電話を切った。その通り確かめてみると、学校からの全体メールが来ていた。
情勢静観のため、安全を考慮して本日休校とします。
1日もうけた。
 こんな言い方は何だが、戦争さまさまだ。いくら岬さんのためとはいっても、日曜を丸一日使って、次の日に登校というのはちょっときつかった。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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