男の静かな闘い

文字数 430文字

関係ないでしょう? 少なくとも、あなたとは。

 向坂にしてもそうだろう。彼は岬さんと話したいのであって、その前に立ちはだかった高校生なんかたぶん、眼中にない。僕が向坂に感じているほどの嫉妬やライバル意識なんか、ありはしないはずだ。

 だから、卑怯かもしれないけど、自己紹介なんかする気はなかった。僕がバイト生活の高校生にすぎないなんて知られたら、ナメられるだけだ。

(向坂が告白の返事を待っている相手と、こっそり出歩いている正体の知れない男。それで十分だ)
 でも、その目論見は意外なところから外れた。
浅賀君……?

 岬さんが、不安げに囁いたのだ。

 どうも、気持ちが先走るとその場の雰囲気が読めなくなる性質らしい。これで「謎の男」路線は完全に消えた。どっちかというと、「謎の間男」といったところだろう。

 当然、向坂の目は岬さんに向いた。

どういう関係?
 隠す理由は僕にはあっても、岬さんにはない。
同じクラスの、浅賀才くん。いろいろ手伝ってくれてるって、ほら、言ったでしょ?
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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