男の静かな闘い
文字数 430文字
向坂にしてもそうだろう。彼は岬さんと話したいのであって、その前に立ちはだかった高校生なんかたぶん、眼中にない。僕が向坂に感じているほどの嫉妬やライバル意識なんか、ありはしないはずだ。
だから、卑怯かもしれないけど、自己紹介なんかする気はなかった。僕がバイト生活の高校生にすぎないなんて知られたら、ナメられるだけだ。
でも、その目論見は意外なところから外れた。
岬さんが、不安げに囁いたのだ。
どうも、気持ちが先走るとその場の雰囲気が読めなくなる性質らしい。これで「謎の男」路線は完全に消えた。どっちかというと、「謎の間男」といったところだろう。
当然、向坂の目は岬さんに向いた。
隠す理由は僕にはあっても、岬さんにはない。