ライバルの猛攻

文字数 401文字

しゃあないなあ……バカは絶対やるなよ。
バカじゃないもん!
 ヨウコにたまらない不安を覚えながらも、当日に備えてそろそろ寝ようとしていたときのことである。岬さんから、急なメールが入った。
〈向坂さん、どうしても今日でなくちゃって〉

 告白の返事が聞きたいというのだ。

 メール画面を覗き見たヨウコは、僕の目を見据えて断言した。

強引に!
 言われるまでもない。ここで折れるわけにはいかなかった。それでも、あまりしつこく誘って嫌われるのも怖かった。言いたいことはたくさんあったけど、内心で妥協に次ぐ妥協を繰り返した末、文面は大変シンプルなものになった。
〈明日は、待ってる〉
もっとはっきり! 断れって言いなさいよ!
 イラつくヨウコに、僕は一言だけ告げると布団の中に潜り込んでしまった。
無茶ぬかせ。
 岬さんの返事によっては、ヨウコと半年間やってきたことが全て水泡に帰する。それを思うと、もう何も考えたくなくなったのだった。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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