最後のチャンス

文字数 651文字

 日が暮れたら、僕は死んでしまうのだ。そのくらい、ヨウコが好きだってことは自分でもはっきりしていた。
(死ぬ? 生きる? もう、関係ない。ヨウコは目の前から消えたって、ずっと心の中にいるんだ……少なくとも、日が昇っている間は)
 そのヨウコはというと、僕の部屋から一歩も出ないで困り果てていた。
どうすんのよ、お兄ちゃん。
僕を連れて瞬間移動……とか。
 神社から僕を運んでこられたのだ。もしかすると、事故現場まで……。
何それ。
だってお前……神社から……。
それアタシじゃない……知らないうちに。
 あんなことが他の誰に、と考えているヒマはなかった。ヨウコが真顔でツッコんだのだ。
だから、どうするの……?
どうしろったって……しょうがないだろ、お前のこと。
それ以上、言っちゃダメ。
 そう言いながらも、ヨウコは笑っている。でも、悲しそうだった。
狐龍になれればいいんだけどな。
何で?
もう、アタシじゃなくなるもん。そしたら、契約外の女の人、好きになったことにならないでしょ?
あと900年あるだろ。
 僕の命はあと1日もないっていうのに、よく言う。ヨウコは済まなそうにうなずいた。
そうなのよね。絶対に今日中には死なないわけよ、アタシ。
 するするとすり寄ってくるのを、片腕で抱えた。畳んだ布団を枕にして、1人と1匹で横になる。
バカ……あ~あ、可愛いって罪よね。
 開き直るのを、横から指で小突いてやった。
じゃあ、日が暮れるまで一緒に……。

 そこまで言って、はっと気づいた。1つだけ、方法がある。

(僕とヨウコが、一緒にいなければ……)
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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