コイツが引っ掻き回す彼女との語らい

文字数 442文字

 花のすっかり散った桜の葉影が、机に長く伸びている。それがどこから来たのか探しているかのように、このおせっかいな娘は皮肉交じりに言った。
まずいんじゃない?
うるさい。
 岬さんには聞こえないように囁いたつもりだったが、机の真向かいに座られていては無理だった。
あ、そうよね。
 そう言う顔は笑っている。冗談と取ってもらえたのは、僕が隣の小娘にそれほど腹を立てていたわけではないからだ。
セーフ。
 こいつと一緒に暮らしはじめたのは、やっぱり去年の秋からだ。半年ほど何かにつけて僕を小バカにしてきたが、その物言いにもいい加減、慣れてきたのかもしれない。

 その同居人の名は、ヨウコという。どんな漢字を当てるのかは知らない。もしかすると、そんなものはないのかもしれないが。

いや、そういうんじゃなくて。
分かってる、いつものことだから。
 慌てて言い訳する僕を、岬さんはすんなり許してくれた。どうやら彼女は、僕を「ときどき異次元へトリップして独り言を口にする不思議少年」というキャラで捉えてくれているらしい。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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