心の声の正体

文字数 423文字

 この図書館で彼女と話ができるようになったこと自体が、僕の人生最大の飛躍だったと言っても過言ではない。

 きっかけは、去年の秋頃だった。ちょうど、こんな閉館時間になって自動ドアから出ようとしたとき、何かに蹴っつまずいて、先に出ようとしていた岬の背中にぶつかったのである。

あ……大丈夫ですか? すみません、これ、落ちました。
え、ええ……。 いえ、お気遣いなく。
そのときに本を拾ったときも、聞こえたのだった。
面白そうな……本……ですね。
……と、言え!

 あのとき、誰が言ったかは、もう分かっている。放課後になると必ず僕の隣に座っている、この辺ではみかけないセーラー服姿の、小柄な女の子だ。おまけに、首から絵馬を下げた異様な格好をしている。

 初めて岬に声を掛けることができた僕を、こいつは上から目線でコキ下ろしたものだ。

なにシドロモドロになってんのよ、人がせっかく最初のきっかけ作ってやったのに!
 どうも、あのとき僕が転んだのも、こいつのせいだったらしい。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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