意外に役に立つ狐ネットワーク

文字数 537文字

 でも、それは長くは続かなかった。ヨウコは急に跳ね起きるなり、セーラー服の中をごそごそやっていたかと思うと、例の絵馬を取り出したのだった。

 素肌が見えそうになってズキンと胸が痛み、思わず目をそらす。

……どこにしまってんだよ。
あ、何か来た。

 さっきは散々ヘンタイ呼ばわりしておきながら、今度は気にも留めない。ふんふん言いながら眺めているところを見ると、狐ネットワークらしい。

またアテにならんあれ?
教えてやらん。
 今までの気まずい空気をごまかそうとして、ちょっとからかってみたのだが、ヨウコは思いっきりふてくされた。絵馬を抱えて向けたセーラー服の白い背中に、僕は再び慇懃にひれ伏す。
お願いします、百年狐大明神様。
 ふざけたつもりだったのだが、「大明神」の一言は、妖狐の虚栄心をくすぐったようだった。

 おもむろに正面を向いたヨウコは、重々しくのたまったものである。

お兄ちゃんの実家にヒントがあります……岬さんとご一緒にどうぞ。
絶対、嫌だ。

 僕は身体を起こすと、胸を張って宣言した。岬はともかく、実家はごめんだ。

 そのまま話を打ち切るつもりで、テレビのリモコン電源を入れる。アフリカ内戦のニュースが流れ始めた。

文民保護をめぐる同盟国の発砲事件が原因で、政府側と反政府側の衝突は……。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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