男の別れ

文字数 313文字

では、いずれどこかで。
 はっとした僕たちが何も言えないでいるうちに、向坂さんは自分の恋にきっちりけじめをつけた。 僕も男として、最後の一言を受け止めた。

生きてお会いしましょう。

 苦笑する向坂さんと僕とを見比べていた岬さんは、やがて、ほっとしたような、それでいて納得できていないような、曖昧な表情を浮かべた。

 そこで口にしたのは、しどろもどろの一言だった。何かその場を取り繕うかのようで、岬さんらしくなかった。

ええと、じゃあ、浅賀君、バイトはもう……。
心配なし。
向坂さんは思い切ったように、視線を交わす僕たちから、くるっと背を向けた。
じゃあ、お元気で。

 さっと手を上げて挨拶しただけで、あっという間にその場から駆け去った。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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