僕とヨウコの調査の成果

文字数 654文字

「宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)」って知ってる?
 実家の話になってしまったので、やむを得ず、「狐ネットワーク」でヨウコが仕入れた情報を少しずつ受け売りする。
日本神話の、五穀豊穣の神ね。杵築家が祀っていたのは、その神様だけど……それがどうかしたの?
 ここからは、知っていることだから、きちんと説明できる。
実家……現地の神社は、信夫ヶ森ってところにあって、そこには狐がいっぱい住んでたらしいんだ。
つまり、どっちも稲荷信仰ってことね。でも……。
どうしたの?
 岬さんが言葉を濁したのが気になって尋ねてみると、言いにくそうな答えが返ってきた。
稲荷神を祀った神社って、日本中にあるから。

 つまり、僕とヨウコが1週間かけて調べたことは決め手を欠いていたわけだ。

ごめん、でも……。
 狐ネットワークが、またガセネタを仕入れてきたのかもしれない。もしかすると、わざわざ実家まで連れていって、岬さんのねぎらいを受けながら赤恥をかいて帰ってくることになるかもしれなかった。
大丈夫。楽しみに待ってるから。よろしくね!
 それでも、岬さんはちゃんと日程を空けて待ってくれている。あとは、僕の問題だった。
あ……由良さん。
 資料を抱えて立ち上がったとき、指の付け根が赤く擦りむけているのに気付いた。ちょうど、ケンカでメリケンサックをはめる辺りだ。
え……と、お料理してるときに、ね。

 見られているのに気付いたのか、岬さんはそそくさと図書館を出ていった。

 その後ろ姿を見つめていたヨウコがつぶやく。

あの人……本当は怖いかも。そんな、気がする。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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