オヤジの正論

文字数 437文字

(僕も、ああいうところへ……)

 早い話が、また軍が海外で戦争するということだ。軍の奨学金についてくる「お礼奉公」……卒業後の入隊義務の間にこれが来るかもしれない。

 他人事ではなくなってくるのだが、平然とした口調で、親父は持論をまくしたてた。

入って1年や2年の教育中に、命のかかるような所に送られたりはせん。戦地に送られると言ったって、そんな大事なところでペーペーのぺーに何ができる。勝てる熟練にしか、そんなところは任せられんだろう。なに、年季が開けるまでの話だ。太平洋戦争の末期じゃあるまいし、それまでにコイツが駆り出されるようなことはない。
 その勢いに押されてオフクロは黙り込んだが、そうじゃないのが1人いた。

 いや、1匹というべきか。

そうかな。
何か言ったか?
いや、何にも。
 僕が言ったと親父が思うのも当然だ。ごまかしたけど、ヨウコの声は止まらない。しかも、僕の声色だ。
あのときも、この辺の大人たちはみんなそう言ってた。ううん、その前から、何か戦争が起こるたびに、ずっと。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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