実家がどのくらい田舎かというと

文字数 534文字

 僕の実家では、第一次世界大戦が終わる頃まで狐が人を化かしていた。
 近所の神社は信夫ヶ森と呼ばれる山の中にあるが、そこには昔、狐がたくさん棲んでいたらしい。
 夜中にえらいベッピンの家で接待を受けたと思ったら、山奥にあるワラビ取り小屋で寝ててな……。
 曇った夜にツレと帰りを急いどったら、急に月が差してきてな。ツレの顔見たら化物になってて、家に逃げ帰ったよ。
お前もか! 俺は俺でお前の顔が……。

 とにかくそんな古くて近い時代の話が残っているくらい、僕の実家は田舎だった。

 今、僕はそんな田舎を離れて、ずっと開けた場所の高校に独り暮らしで通っている。街は午後8時になったくらいじゃ寝静まったりしないし、ビデオもマンガも100円で1週間借りられる。海外旅行に行くのだって、パスポートを取るために県庁まで片道2時間の小旅行をしなくても済む。

(ただし、学生生活を送るのは楽じゃない……)
なんとか授業料は払ってもらえるが、、仕送りは1円もない。親元を離れて高校生活を送る条件が、それだった。諸経費と修学旅行の費用までは何とか出してくれることになっている。だが、その他は全て……。
家賃から電気・水道・ガス代に至るまで、自分で何とかしろ!
 これが実家の……というかオヤジの方針である。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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