解けていく謎

文字数 402文字

 その嘘に、あの時と同じくらい胸が痛んだ。本当は、僕の幸福のために、この世から消えたのだ。でも、それは岬さんが知らなくても、いや、知らないほうがいいことだ。
そう。会うことがあったら、宜しく伝えてね。
あ、ああ。

 曖昧に応えるしかなかった。二度と会うことはない。心の中では、そう思っても。

 やがて一仕事始めると、かなりの荷物が蔵の外に出た。後のがらんとした空間の中で、岬さんはころりと横になる。その仕草は、どこかヨウコに似ている気がした。

私ね……才くんが思ってるよりずっと変な子なんだ。だから、あんまり人と付き合わなくって。
 その少数の中に向坂さんがいたわけだ。あれから、僕たちの前には姿を現していない。忙しいのか、忘れられたのか、それとも避けているのか。
何かテンパっちゃうと、ふっと意識がなくなって、別のところにいたりとか……。
それは知らなかった。ちょっと心配な気がしたが、その経験を聞いて、あっと思った。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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