すべてが1つの輪でつながる

文字数 356文字

あ、ここにもある、五穀豊穣を祈り、分社して伏見稲荷を氏神として祀ってきたって……。

 やっぱり才媛だ。僕の目には長い波線にしか見えないが、岬さんの目には1字1字がくっきりとした形を取って見えるのだろう。

 だが、結婚前にあまり情けない所も見られたくないので、何もかも分かっているようなフリをしてみせた。

ウチも山奥の土地だからな、痩せてたんだろ。この辺みたいに。
 だが、そんな拗ねた物言いも、岬さんにはひらりとかわされた。別の箱を引っ掻き回りて、一枚の古い写真を取り出す。
で、分社したのが私のひいお爺さん。結婚した相手が、この人。
……!
 写真を見せられて、再び、あっと思った。その女性は、果てしなく似ていたのだ。
(……どうしたの? お兄ちゃん)

 信夫ヶ森の妖狐のヨウコに……。

 その時、僕の頭の中で、全てがつながった。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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