岬さんの謎

文字数 464文字

何してんの? お兄ちゃん。
 ヨウコだった。今朝、僕に姿を変えて、今はうどん屋でバイトしているはずの妖狐だった。それなのに、なぜか遠く離れた山奥で、今朝着ていった僕の服を着て、きょとんとした顔で突っ立っている。


(襟元……隠せよ)
 とりあえず、Tシャツとハーフパンツという平凡な格好だったが、思わず目をそらしたのは、服がぶかぶかで、襟元から薄い胸が見えそうだったからだ。
あれ……妹さん?

 岬さんがそう呼んだのには驚いたが、よく考えれば、僕がコンビニをクビになったとき、一度会っていたのだった。

(あれ? ……ってことは?)

 あのときは、レジで俺におごらせるために姿を見せていた。でも、今は岬さんの前だ。誓いを守る気があるなら、その眼の前をうろうろしたりはしないだろう。
アタシが……見える?
 僕からは聞くに聞けないことをヨウコが聞いてくれたが、常識で言ったら聞くべきじゃないことに変わりはない。
お前。
 妖狐の本性に関わることだけに、それ以上は喋らせるわけにもいかなかった。黙らせようと思ってツッコんだが、ヨウコもそこは心得たものだった。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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