僕たちはこんな風にして出会った

文字数 423文字

あのまま凍え死ぬかとおもったんだからな。

本当に死んじゃうって……そんなに簡単なことじゃないんだよ。……はぐ。
人を一晩中、夜露と夜風にさらしといて……。

 次の朝、鼻水ずるずる垂らしながら部屋に戻ると、実家からついてきた見ず知らずの女子中学生は、玄関前で三つ指突いて出迎えたものだった。

 そこで初めて、この娘が何者か分かったのだ。

信夫ヶ森の百年狐、一宿一飯の恩義を果たさせていただきます。

 ヨウコは夜食を食べ終わると、そのときと同じ仁義を切ってみせた。多少おどけて見えたのは、僕もコイツも慣れてきたせいだろうか。

 だから、こっちも慇懃に頭を下げてみせる。

謹んでお受け仕る。
 もっとも、そんなしかめっ面しく畏まった姿勢は、僕もヨウコもそうそう長くは続けられない。
 ふう……まあ、岬さんとはアカの他人でもないわけだし、まだチャンスはあるって。
 不敵に笑ってみせるが、どうも不安だ。男の前で高々とあぐらをかいてみせる小娘が請け合っても、説得力がまるでない。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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