男として最も見たくないもの

文字数 556文字

……仕方ないか.。

何する気だ?

 苦笑と共につぶやいたところで果てしなくイヤな予感を覚えて尋ねてみたところ、それを上回るような爆弾発言が飛び出してきて、僕を愕然とさせた。

アタシがバイトする!

 言うなり、ヨウコはその場で軽々とトンボ返りを打ってみせた。

おい!

 そう叫んだのは、ヨウコの思い付きというよりも、物理的にお猪口にならざるを得ないスカートの中が見えそうになって慌てたからだ。

 目を背けると、床の上で軽い音が、とん、と聞こえた。

ねえ……見て。
 さっき視界をかすめたものが記憶の底にちらついて、声のするほうをまともに見られなかった。
ねえったら……お兄ちゃん。

 そんな声を出されると、よけいに見られない。

 おまけに、息苦しくなる。

早く……アタシだって、恥ずかしいんだからね。
 おかしな理屈だが、息苦しいのに負けて、僕は意を決した。
……いい加減にしろ、ヨウコ!

 言い訳がましいが、決して邪な気持ちはない。そうしないと、本当に生きていられない気がしたのだ。

 だが、そんな覚悟は見事に裏切られた。

どう? 似合うかな、お兄ちゃん……に。
 そこには、つんつるてんのセーラー服を着た僕が、ヘソと毛脛を出してセクシーポーズを取っていた。
絶対にやめろ。
 思いっきり不機嫌に言ってみせたが、もちろん、そんなことを聞くヨウコではない。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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