謎が謎を呼んで

文字数 461文字

あ……。
 そこで僕が発見したのが……。
……。
……。
 きっちり90°に頭を下げた岬さんと、きまり悪そうに突っ立っている向坂……さんだったというわけだ。
(……これで全部、元通りだね)
 いや、ただ一つ、戻らなかったものがある。ヨウコだった。

(そうだ、実家!)

 僕はあの後すぐに、実家へ戻った。探し回ったけど、どこにもヨウコの姿はなかった。
(ヨウコ……ヨウコ!)
 もちろん、信夫ヶ森にも探しに行ったけど、ムダに終わった。和泉の葛の葉狐の伝説をパクった別れ際の歌は、冗談でも何でもなかったというわけだ。
(そうか……もう、ヨウコは、この世にはいないんだ。こんなに好きなのに、契約に背いた僕が生きてるんだから)

 たぶん、時間を地球の半回転分だけ逆転させたせいだろう。

 昔話の女が命を差し出さなくてはならなかったように、ヨウコも妖狐の妖力を使い果たしてしまったのだ。

(死んだ相手との契約は続けられない。当然、ペナルティもなかったことになるんだろうな)
 これで、僕の妖狐……ヨウコとの恋の物語は終わりだ。でも、解けていない謎がいくつかある。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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