思わぬ危機

文字数 406文字

ダメだった。
肩をすくめてみせると、甲高い声で詰問が返ってきた。
どうすんの。
断るしか……。
 実のところ僕も困り果てていたが、ヨウコに情けないところは見せたくなくて、努めて冷静を装った。だが、いささか感情的な追及は止むところを知らなかった。
あのね、アタシと狐ネットワークは……。
契約は破ってないぞ、むしろ僕は……。
 どうにもならないことを責められるのがイヤで、僕はヨウコの言葉を途中で押しとどめた。セーラー服の妖狐は、唇を噛みしめてうつむいた。
知らない。
 その何度目かになる拒絶の言葉に、急に胸が苦しくなった。喩えでも何でもなくて、もう、立っていられないくらいだった。僕は膝をついて、ぜえぜえと喉の奥で息をした。
……! 
お兄ちゃん?……才!

 床に倒れ伏しそうになったところを、ヨウコが小柄な体で抱き留めた。その細い腕に抱えられながら、僕は薄い胸に頭をもたせかけた。そうしないと、全身で押し倒してしまいそうだったのだ。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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