命の危機と……

文字数 409文字

 なにか冷たいものが頬に当たって気が付くと、やけに高い所にある実家の天井が見えた。
よかった……浅賀君!
 目にいっぱいの涙を溜めた岬さんが、僕を見下ろしている。顔が逆さなのは何でかと思ったら、膝枕をしてくれているのだった。

 慌てて、一発で跳ね起きる。

も、もう大丈夫だいじょうぶ大丈夫!
 そう叫んだけど、全然大丈夫じゃなかった。大きな声を出したせいか、頭がくらっとして目が回り、再び畳の上へ仰向けに倒れる。
セーフ!
 二つに折った座布団を滑り込ませたのは、ヨウコだった。そこへ、親父とオフクロが何だ何だと駆け込んでくる。二人して僕と岬さんを交互に見比べた。
おい……。
いつの間に……?
 ということは、誰がどうやって僕を連れてきたのか、見た者はないということだ。近所の人が見ていたら、今ごろ死ぬか生きるかの大騒ぎになっていただろう。

 たぶん、ヨウコが助けてくれたのだ。

(すると、岬さんはそれを見ている……いや、化かされたのか?)
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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