実家と日本と

文字数 420文字

 僕は子どもの頃から、お爺ちゃんお婆ちゃんからそんな昔話を聞いて育った。

 少し年をとって知恵がついてくると、そんな話が残っている田舎暮らしのハンデをつくづく感じたものだし、だからこそ親とケンカしてまで私立高校に進んだのだ。

 だからこそ、絶対に実家へ帰るのはイヤだ。みっともない。

僕だけじゃダメかな?
岬さんが行かないと意味ないでしょ。
 それはそうだけど、僕ひとりだって格好がつかないのに、ましてや岬さんなんか連れて帰ろうものなら、人目には付くわ親父には面目ないわ、それこそ授業料までも止められてしまうおそれがある。そうなれば地元の公立高校を、2年後に掟破りの成人高校生になるのを覚悟で受け直すしかない。
(それが嫌なら……)
 軍から奨学金を貰ってお礼奉公だ。紛争地の最前線などに送られた日には、命がいくつあっても足りない。アフリカの内戦だって、対立する勢力の背後にいる大国が動き出したら、同盟国の軍隊が駆り出される。
(もちろん、日本だって……)
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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