妖狐のヨウコがやらかしたこと

文字数 428文字

で、何があったんだ?
え……その……。
 ヨウコの声に泣きが入って、僕はいささか早口に言葉をかぶせた。
怒らないから。
 すうっと息を吸い込んで、今日の失敗談が始まる。
 最初は、うまく行ってたんだ。開店前の掃除もできたし、店の注文も取れたし、お代の計算間違えなかったし……。
偉いぞ。
へへ……。
 傍らを歩いているのを見もしないで、頭を撫でてやる。ヨウコは照れくさそうに笑った。
でも、お昼に……。
お昼に?
……。
 ヨウコにとってはお楽しみの、油揚げ醤油ご飯が待っていたはずだ。だが、そこでまた、ヨウコは口ごもった。問題は、そこで起こったらしい。
怒らないから……。
 なにぶん、今後の食い扶持が懸かっているだけに、さっきと同じ言葉は歯切れが悪かった。事の大きさによっては、すっ飛んで戻って詫びを入れれば済む問題かもしれない。それでも、ヨウコはようやく重い口を開いた。
油揚げ醤油ご飯食べてるうちに……。
 嫌な予感がしてきた。もしかすると、とんでもないことになったかもしれない。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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