勝負の日は来た

文字数 420文字

 いろいろアクシデントはあったが、僕は岬さんを連れて実家に行くことになった。

 待ち合わせ場所は、長距離バスのターミナルだった。

(ヨウコのほうは……信じるしかない)


 空けたバイトの穴埋めに、ヨウコは朝早くから、高校の制服を着た僕に姿を変えて出ていった。張り切っている分、心の中には果てしない不安しか残らなかった。

待った?
あ……いや……今来たばっか。

 待ち合わせ場所のバスターミナルに、岬さんはジーンズに長袖のフライトジャケットというラフな格好で現れた。

 制服姿じゃなくても、やっぱり可愛い。顔を合わせたときの社交辞令がしどろもどろになるくらいに。

変かな? 男の子みたいで。
いや、山ン中だし。
 女の子の服を褒めたことがないので、つい不愛想な言い方になった。しまったと思ったけど、そこは岬さんだ。さらりと流してくれた。
前に、山間地を回ったときに、向坂さんが教えてくれて。
(はいはい、そうですか)
 忘れちゃいけない。これは、まだデートじゃないのだ。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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