彼女が見せる不思議
文字数 500文字
整理中の本棚が、あちこちでカタカタ鳴っている。閉館する館内から追われるかのよう、岬さんはふうわりと席を立った。
足音も立てずに出ていこうとする彼女を呼び止めたが、聞こえていないのか、無視されたのか、閉まった自動ドアに行く手を阻まれた。
最後に見えたのは、彼女が手に持った『古文書解読』の表紙タイトルだけだった。容姿端麗、頭脳明晰な岬が持っていても不自然な本ではない。
不自然だったのは、去年、僕がそれを拾って差し出したときのリアクションだった。
見られてはいけないものを見せてしまったときのような……。
それはともかく、分厚い本を慌てて胸に抱えて背中を見せながら、ちらりと振り向いたのときの眼差しは、とても10代とは思えないほど色っぽかった。
絶対にそんな女の子じゃないのに僕をドキっとさせた、その姿はもう、記憶の中にしかない。
というか岬さんの姿は、自動ドアが閉まった瞬間、幻のように消えていたのだった。
ただ、その向こうで廊下の奥から聞こえるドスンという音を除いて。