彼女の探し物
文字数 478文字
それでも手元の分厚い本は、ぱたん、と音を立てて綴じられた。表紙には、『古文書解読』と記されている。初めて言葉を交わしたとき、持っていた本だ。
そのしなやかな指が押さえているノートのページには、岬さんが平日休日問わずに図書館通いをしている理由がある。
丸に稲穂の家紋は、一般に「稲荷紋」とか呼ばれているらしい。ただ、稲穂が竜胆の葉を抱えているものは珍しいという。
これが、岬の家に伝わる家紋である。
先祖はどこの何者で、何をしていたのか。彼女は、自らのルーツを探し続けているのだ。それを知った去年の秋から、僕は毎日、岬さんが休日に集めてきた情報の整理につきあってきたのだった。
そう言いながらも、それなりの手助けはできたと思っている。口幅ったいようだが、それなりの知恵と学力は磨いてきたつもりでいる。
引っ越してきてからの1年で、模試ではそれなりの国立大学を狙えるくらいの判定を出せるようにはなっているのだ。それでなくては、わざわざ下宿してまで地方都市の高校に通っている意味がない。
引っ越してきてからの1年で、模試ではそれなりの国立大学を狙えるくらいの判定を出せるようにはなっているのだ。それでなくては、わざわざ下宿してまで地方都市の高校に通っている意味がない。