ささやかな祈り

文字数 346文字

(神様……どうか)
 ただその時、僕が岬さんに内緒でやったことがある。絵馬の奉納だ。下手に見られたら、何をお願いしたのか聞かれるに決まっている。もちろん、見られて困ることは書いてない。
どうしたの、才くん?
あ、別に……。
 いや、何も書いてないから困るのだ。そもそも絵馬というのは、神様への願いを込めて、馬の代わりに絵を捧げるものだから。
ふふ、怪しいなあ……。
いや、何でも、ない、ない、ない!
 もちろん、叶う願いじゃないってことは分かってる。岬さんを生涯の伴侶に選んで、いくら何でも、それは許されない。
(もう一度、ヨウコに会わせてくれなんて……)
 だが、あの絵馬……ずっとヨウコの胸にあった狐ネットワークの端末を神社に残してきたことで、心のどこかに引っかかっていた想いに区切りをつけることができた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色