単純なパズルの……解答

文字数 460文字

……!
 バンバン背中を叩かれているうちに、だんだん胸が苦しくなってきた。僕は返す言葉もなく、ヨウコのちいさな膝の上に身体を折った。
どうしたの、お兄ちゃん、お兄ちゃん!
苦しい……死にそう……。
 本当に、そんな気がした。心臓がねじ切れそうだった。肺が無限に膨らみそうな、いや、どこまでもしぼみそうな感じがした。
何で? どうして? まさか、本当に浮気とか?
しない! ……しない! 絶対に……。
 命が懸かっていた。苦しい息の下で、僕は必死で弁解する。
いつも一緒にいたくせに、分かんないのか! 僕の周りに、岬さん以外の女がいたか?
 そこで、僕ははたと気付いた。

 自分で口にした謎が、単純なパズルだということに……。

そうか、そういうことか。
 僕は、ヨウコの膝の上でころりと寝返りを打った。涙を目に浮かべた可愛らしい狐娘の顔が見える。たぶん、僕と同じ結論にたどりついたのだ。
バカ……言ったじゃない、日が暮れると死んじゃうんだよ……才は。
 落ちた涙は、熱かった。それを拭うつもりかどうなのか、妖狐のヨウコは僕の頬を小さな掌で撫で続けた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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