訪れる絶対の危機

文字数 406文字

ちゃんと見えるわ……はじめまして。
 それた話題を思いっきり元に戻してくれたのは岬さんだった。傍目から見れば兄妹がワケの分からない議論をしているように見えたことだろう。
あ、ああ、ごめん……。

 完全に置き去りにされて、居心地が悪かったに違いない。それがわかっていながら、愛想笑いしかできない自分が悲しかった。

 それに引き換え、ヨウコは要領がいい。

お兄ちゃんを宜しくお願いします!
 姿を見られていることにあっさりと開き直り、いかにも物わかりのいい妹といった様子でペコリと頭を下げる。襟元から服の中がモロに見えて、僕は背中を向けた。
(だからせめて……ちゃんと着けてこい!)

 その時だった。

 ……ズキン!

 心臓の辺りに、ものすごい痛みが走った。

(息が……苦しい。立って……いられない)

浅賀君!
お兄ちゃん!
ふ……う……。
 目の前が真っ暗になって倒れたとき、最後に聞こえたのは遠くの木の葉のざわめきと、2人の女の子の声だった。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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