2人並んで目の前に……。

文字数 489文字

ごめん……。

ごめん……。

 2人の女の子が同時に謝ったので、僕はどっちに答えていいのか分からなくなった。

 とりあえず、泣いていた岬さんに返事をする。

岬さん、悪くないよ。
そうじゃない、そうじゃないの……。
 何を言ってるのか、さっぱり分からない。困り果てて目をそらした先では、ヨウコが申し訳なさそうに縮こまっている。こっちも何でか見当もつかないが、そこでふと思い出したことがあった。
何でお前が……?
 時間帯からして、ほぼ日中全て入れたバイトのシフトはまだ終わっていないはずだ。どうして、ここにいられるのか?
バスで……。
 姿を消してタダ乗りしてきたらしい。
いや、そうじゃなくて。
そうよね、私、帰る……
 岬さんは僕の言葉を誤解したようだった。それとほぼ同時に、ヨウコが重たそうに口を開いた。
ごめん……バイト、クビに。
 そんなことだろうと思った。僕はどっちにも、同じ言葉で答えた。
いいんだよ……いいんだよ、別に。
 岬さんもヨウコもいっぺんに泣きだしたので、僕は大いに困った。それは両親も同じことだったようで、親父は困ったような顔でどこぞへ引っ込み、オフクロは岬さんをおろおろとなだめていた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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