彼女の切なる悩み
文字数 497文字
じっと見つめる彼女の眼差しを正面から受け止められない視界の隅で、自動ドアが開く。出ていった者もなければ、駆け込みの入館者もない。
まっすぐな眼をした由良岬(ゆら みさき)が、責めるように僕の名を呼んだ。
僕にしても、彼女が告白されたされないというのは他人事ではない。結構、大問題なはずなのだ。
でも、そのときは、図書館に誰も出入りした者がないことのほうが気になっていた。
それこそ狐か何かの仕業のようにもみえたのだが、何のことはない。本棚のチェックをして回っている司書のオバサンがすぐそばを通り過ぎただけのことだ。
岬さんは同級生だが、名前まで呼んでくれることはめったにない。さすがに僕も我に返ったが、正直、考えたくない話題だった。
彼女が民俗学かなんかを研究している大学院生とつきあっている……というか、休日を共にしていることは、既に何のためらいもなく打ち明けられている。