ライバル、消滅

文字数 506文字

 僕も笑ってみせる。別に責める気はない。
(告白してきた相手に隠さなくちゃいけないくらいには、僕も男として意識されてるってことだ)
 何だか、勇気が湧いてきた。
わざわざ来てもらうこともなかったんですがね。ここらは僕の庭みたいなもんなんで。
 これは本当だ。田舎での人生に見切りをつけるまでは、山や川を駆けまわって遊んだものだ。神社を覆う木陰を渡る風の音までは知らなかったが。

 だが、向坂も余裕たっぷりだった。

だけど、現地の人が目で見ているものよりも、外部の人が書物で得た知識のほうが正確だってこともあるんだよ。
百聞は一見に如かずと言いますがね。
 気の利いたことを言ったつもりだったけど、高校生の浅知恵など、留年抜きで大学に6年間いた学生には何ほどのこともないようだった。
針の穴から天を覗く、の喩えもあるよ。
何だかカチンと来た。天から地上の僕を見下ろしているような物言いだったからだ。
……。
 岬さんの様子をうかがうと、僕の背中に隠れている。

 これ以上、怯えさせちゃいけない。僕は意を決して、向坂に向き直った。

帰っていただけません……か?
 そう言うまでもなく、いつの間にかいなくなっていた。

 代わりに、そこにいたのは……。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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