妖狐にも分かる女心

文字数 412文字

(我慢……って、楽しかったし、僕)
 1人しか入居できないアパートでこっそり2人で暮らして、ふざけあったりじゃれあったり喧嘩しては仲直りしたり、こんな日がずっと続けばいいと、いつしか思うようになっていた。

 いや、終わるなんて思っていなかったのだ。

(だって……だって、岬さんが振り向いてくれるなんて、本当は思ってなかったから)
 ヨウコは、永遠に続くはずだったその契約を、改めて口にした。
決して、他の女に二心を抱かざること。移さば、その日没に死すべし。

 そんなこと、有り得なかった。いくら諦めているからって、僕の目には岬さんしか見えていなかったのだ。

 でも。

ちょっと待ってよ、まだ僕は……。
あれ、OKのサインだからね。アタシにはわかる。

 ひとりで腕組みして、ヨウコはもっともらしく目を閉じると、うんうんと頷いた。

 告白もその成就も、チャンスはすぐに巡ってくるということだ。

これでほとんど間違いないでしょ。あとは、自分でやんなさい。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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