死の間際の昔話
文字数 474文字
そこで、頭の隅っこに浮かび上がった昔話があった。死ぬ間際の、この切羽詰まった状況で思い出すものじゃないが、人間の心というのは、そういう無駄な働きをするものなんだろう。
女は死に物狂いで田植えをした。
だが、あとわずかというところで日が沈みかかった。
夕日は、無情にも山の端に消えていく。広い田に、影が落ちる。最後の光が、その彼方に点となって消えていく。
女は、とうとう夕日に向かって叫んだ。
女の一念が通じたのか、夕日は少しだけ、沈むのをやめた。
その間に女は田植えを終えたが、その場にばったり倒れると、事切れた。
やがて日は沈んだが、そのとき、女は一羽の小鳥となって何処かへ飛び去ったという。