ヨウコの心の秘密

文字数 475文字

 しばしの沈黙の後、ヨウコは恥ずかしそうに教えてくれた。
 狐もさ、1000年とかそのくらい生きると平気なんだけど、100年くらいじゃ、やっぱり、ね。ちょっと気を抜くと、尻尾とか耳とか、出ちゃったりするんだ。
どんな、とき?
 聞いておいたほうがいい情報だった。ヨウコに恥をかかせないように。
ん……びっくりしたときとか、好きなものを目の前に置かれたときとか。
 おずおずと答えたところで、ふと浮かんだ疑問があった。
あれ? 油揚げは?
 バイト先のまかないで、山盛りにされた油揚げ醤油ご飯を、ひたすらがっついているイメージしかない。
我慢してるの! 結構、気い張るんだから! 才が……アンタがいると!
才?
あ……。
 ヨウコは真っ赤になって、その場にうずくまった。僕を名前で呼んだのは、これが初めてだったのだ。

 僕はすぐにフォローした。

い、いいよ、才で。だって、ほら……僕の、あの、ええと、妹、なんだし。
ありがと。

 はにかみながら頷くと、ヨウコは照れ臭いのか、その場に丸くなって横たわった。まるで、ねぐらの中の狐のように。

 僕もようやく一息ついて、大の字に寝そべった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色