岬さんには言えない僕の秘密

文字数 419文字

(第一次世界大戦……っていうか、20世紀に入っても狐が人を化かすような片田舎で出せる結果なんぞ、たかが知れてるよな)
 謙遜の言葉の裏にある、そんな考えが思い上がりだってことは自覚している。でも、岬と同じ学校、同じ空間にいられるんなら……。
ううん、助かった。
 岬さんがそんな内心に気付くはずもない。いや、たとえ社交辞令だって構わない。その一言のためだったら、僕は天にだって逆らうだろう。
狐ネットワークに感謝してね。
 姿が見えないのをいいことに使い倒してきた情報源が、俺の耳元で嫌みったらしく囁く。実を言うと、古文書を読んだり、地方の古い家系や記録を調べたりなどという作業が、一介の高校生にそうそうできるものではない。
(そんなものが……)

 「あるんかい、そんなもん」と最初はツッコんだものだが、なかなかに侮れなかった。

 このネットワーク、レスポンスが妙に早いのだ。

アタシには強い味方がいるんだから。日本全国に何千何百っていう、古狐たち……。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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