出発前のひと悶着

文字数 439文字

 だが、妖狐のヨウコにとって、契約外のことはどうでもいいらしい。僕が岬さんと結ばれれば、その後の人生も日本の命運も知ったことではないのだろう。
ふたりきりになるチャンスなんだけど。
お前がいるだろ。
 僕の行くところ、ヨウコはどこにでもついてくるのだから、正確に言えば岬さんとの二人きりはあり得ない。
邪魔はしないから。
 大真面目な顔をしているところを見ると、一応、自分の立ち位置を気にはしているらしい。
本当だな。
 こっちは顔をしかめてみせたが、実を言うと、特に問題にはしていなかった。いや、むしろ、それはそれで面白いような気がしていて、何が起こるか楽しみでさえあった。

 だが、僕の期待はさらりと肩透かしを食らわされた。

アタシはやることがあるから。
何? 何?
へへ~ん。

 興味津々で聞いてみたけど、ヨウコはにやにや笑って答えようとしなかった。

 仕方がないので、とりあえず、岬さんにメールしてみることにした。

何? 何?
内緒。
ふ~んだ。
 自分のことは棚に上げて、ヨウコはちょっとふてくされた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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