まだ見ぬ戦とその目で見た戦と

文字数 425文字

ううん、お父さんの言ってることが多分正しいの、アタシが言ってたの、昔の話だし、そんなに簡単にお兄ちゃんが死んじゃうなんて、ありえない。
 気にもしていないというふうに笑顔で答えてみせたが、そのフォローはピント外れだった。
(いや、お前のあやかしっぷりがだな……)

 まあ、バレなければいい。ヨウコとしても、その目で100年を見てきた身としては、黙っていられなかったのだろう。僕もまた、戦争で死ぬかもしれないと思ったからこそ、軍の奨学金は避けてきたのだ。

 でも、よくよく考えてみれば、親父の言うことのほうが現実的だった。だからこそ、みんな気楽に学生生活を送って、卒業したら年季奉公に出るのだろう。

そうだな、そう簡単に死んだりしないよ……でも、ありがと。
へへ……。
 そこまで心配してくれたのが、嬉しかった。
全部、お前が見てきたのか? すごいな、やっぱり100年生きた狐は……。
 重い話をうまくそらしたつもりだったけど、思いのほか、しんみりした言葉が返ってきた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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