僕たちの誓い

文字数 593文字

スカート姿で足を開くな。
 天井に遣った目をちらっと下ろすと、ヨウコが慌てて前を隠すところだった。
どこ見てんのよ。
……すまん。
 ちょっと気まずい空気が流れた。胸に重苦しい空気が溜まっているのを、一気に吐き出す。
コホン……まあ、ライバルいるっていうのは想定外だったけど。
 咳払いでその場をごまかしたのは、妖狐のヨウコのほうだった。
どうすんだよ。
 恩を着せるつもりはないが、それなりのビジョンを示してもらわないと納得はできない。当然の疑問のはずなのだが、ヨウコは正面から答えようとはしなかった。
自力で勝てると思ってんの?

 めいっぱいの威圧は、何の展望もないことの裏返しだ。目の前に暗雲がたちこめる。

 それを吹き払うには、思いっきり笑ってみせるしかなかった。

無理です!
ヨウコは、セーラー服の薄い胸を小さな拳で叩いてみせた。
まっかせて! お兄ちゃん。

 自信たっぷりに請け合っては見せるが、今日も落ち着きのないその振る舞いを見ていると、どうにも不安は拭い去れなかった。

(でも、なぜだろう……僕の心の中に、それを楽しんでいる自分がいる)
 そう思ったとき、ヨウコは喝を入れるかのように再び咳払いすると、正座して厳かに言った。
では、お兄ちゃん、寝る前に誓いの言葉を。
 僕も居住まいを正して、あの朝、仁義を切った妖狐との約束を改めて口にする。
決して、他の女に二心を抱かざること。移さば、その日没に死すべし。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色