ヨウコの不思議

文字数 441文字

残念でした。
 からかうヨウコを睨んだが、その後ろには窓のカーテンを閉める司書のオバサンがいた。
開きますよ、それ。
 ぶっきらぼうな言葉通り、一応、ガラス扉には「ここに触れてください」と書いてある。
ああ、すみません、知ってます。
  頭を掻きながら答えはしたが、言われた通りにしても開くわけがないことは分かっていた。
 机に戻って、鞄にノートやらシャーペンやらを放り込む。その手元を眺めながら、ヨウコは無責任なことを言う。
女の子は、もっと大事に扱わなくちゃ。
 それが岬さんのことを指しているのか、自分のことを指しているのかは分からない。だから、返事のしようがなかった。
 代わりに、答えの分かりきったことを聞いてみる。
逆転させたな、また。
 ヨウコは答えないで、自動ドアの前に立つ。触れてもいない扉が、勝手に開いた。
……?
 近くで書類を整理していた司書のお姉さんが驚いて振り向いたが、誤作動はどんな機械にでもあるものだ。だから問題にもならなかったようだが、実はこれ、種も仕掛けもあるトリックだ。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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