回る水車の罠

文字数 444文字

そう、あの水車男。

 バイト先の看板でもある、あの水車。

 あれだって、ヨウコは逆回転させたのだ。しかも、輪っかそのものじゃなくて、モーターで循環させてある水を逆流させて……。

 何でそんな真似をしたかというと、僕と岬さんの出会いをセッティングするためだ。

(そのせいで、よけいドツボにはまったんじゃないか。この向坂って男の顔、直に見る羽目になって……)

 今のバイトが決まって休日のシフトに出たとき、ついてきたヨウコは岬さんが店に来たのに気付いたらしい。

 意味深に、こう言ったものだ。

まあ、見ててよ。
 たちまち、店は大騒ぎになった。僕は厨房で皿洗いをしていたので、岬さんの来店に気付くどころか、何が起こったのかということさえ見当がつかなかったのだ。
店長! 水車が……。
……ああ、えらいこっちゃ!
 水車が逆回転を始めたのだ。
今よ! お兄ちゃん!
 ヨウコが僕を店先に連れ出すと、水車がショルダーバッグを引っかけて、てっぺんまで持ち上げるところだった。放っておくと、水があふれ出している水槽に落ちる。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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