ヨウコの秘密

文字数 423文字

 だから今度はこの自動ドア、なかなか閉まらない。俺はエレベーターの「開」ボタンを押してもらっている最後の利用者のように、その向こうへと駆け込んだ。
めっ!
 自動ドアが閉まるのを背中で感じながら、俺はヨウコの頭を指で小突く。
やってあげたんじゃない。
  語るに落ちるというやつで、ムッとして見上げるヨウコは自分の仕業であることを白状していた。
 このヨウコ、自動ドアのモーターでも何でも、回るものを逆転できるのだ。
うるさい、全部オマエのせいだからな。
 実をいうと、少し、ほっとしていたりもする。ヨウコをそばに置いたまま岬と話すのは、結構ストレスがたまるのだ。
 だが、文句を言うのはヨウコのほうだ。
何よ、ヒマつぶしもいいとこでしょ、自分の先祖がどこの誰かなんて調べるの。
僕はともかく岬さんはね……。
 真剣なのだった。岬さんが自らのルーツを知ろうとするのは、いわゆる歴女の好奇心などではない。親に勝手なことを言って下宿までしている俺とは比べ物にならなかった。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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