人生と戦争と

文字数 415文字

奨学金。

 みんなやっていることだ。いや、現在の日本で、それをやらないのはむしろ、贅沢といえるかもしれない。知と学問と立身出世というのは、血と汗と涙で勝ち取るものなのだろう。

 だが、僕の答えにヨウコは一瞬だけ息を呑んだ。

戦争行って帰ってきたの見たことあるけどさ……。
 語り始めたときは、敗戦後のいわゆる「復員兵」のことかと思った。その手の話は、歴史教育や道徳教育という名目で散々聞かされてきたのだ。だから、僕たちの世代は、どれだけショッキングな事件を聞かされても、「戦争はいけないと思います」でその場のオチをつけるよう訓練されている。
(女子中学生の言うことかよ……って、100年も生きてんだっけ)

 考えてみれば、年を経た妖狐がそんな事件を直接に見聞きしていたとしても、不思議はない。

 だが、聞き終わってみると、決してそんなステレオタイプの話ではなかった。

そんなことが……。
 ヨウコが一気に語り終えたのは、狐としての特異な体験だった。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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