僕とヨウコの連携トリック

文字数 475文字

あ、弟さんですか。

 これが、その大学院生だ。でも、僕に兄弟はいないし、この向坂に電話をかけられるいわれもない。

 返事はしないで、ヨウコの顔を横目で眺めた。

……。
へへ……。狐ネットワーク。
 にやりと笑って親指を立ててみせた。 察するに、これが妖狐の術なのだろう。

 他の狐たちと何をどうやったのかは見当もつかないが、今度は水どころではなく、電波の流れまでも操ってみせたということだ。つまり、携帯電話の混線を起こしたのだ。

はい、そうですが。
やるう!
 とっさの返答は、ヨウコにしてみれば正解だったらしい。その笑顔が、何だか眩しかった。
お姉さんお願いできますか?
ちょっと今、困るんですけど。
く……くく……。
 調子に乗って、由良家の弟になりすます。セーラー服姿の妖狐は、腹を抱えて笑っていた。
どうして?
迷惑だから切ってくれって。
やりすぎじゃない?
 ひいひいと引きつった笑いの底で、ヨウコは絞り出すような声でツッコミを入れてきた。
まさかそんな。
 さすがに向坂も不審に思ったらしいが、そんなことは想定の範囲内だ。
お風呂入ってるんです。
ああ、そういう……失礼しました。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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