これもひとつの「戦後」
文字数 429文字
僕の実家では、第一次世界大戦が終わる頃まで狐が人を化かしていた。
青島攻略戦から凱旋した男が1人、意気揚々と帰ってきたが、着いたのが夜中で駅の辺りに泊まるところがなく、友人に自転車を借りて帰宅を急いでいた。
知った道のはずなのに、どうしても家にたどり着くことができず、いつの間にか広い河原に迷い込んでいた。
渡れる橋も見当たらないので、自転車をかついで向こう岸へ行こうとしたところ、川は意外に深い。
足の着くところを探して、冷たい水の中をあちこちうろうろしているうちに、自分がどこにいるのかわからなくなってしまった。
やがて夜が明けたとき、彼は家から遠く離れた、草深い荒れ地で自転車を背負ったまま立ち尽くしていたという。