己を明かす紋章
文字数 452文字
そんなふうに精神的にも肉体的にも辛い思いに耐え抜くと、やがて神社の境内に出た。
ひんやりと静まり返った砂利の上には、鼻をジンとさせる香りの杉の葉がちりばめられている。僕たちはそこを一直線に通過して、古い拝殿の上に立った。
その鴨居の辺りには、今は失われて久しい宮司の家紋らしきものが刻まれている。それを見た岬さんが、息を呑んだ。
稲荷神社に稲荷紋があるのは、不思議なことではない。だが、その真ん中に描かれたものには、僕も気づいていた。
それは、この神社が岬さんの母方の先祖、杵築家のルーツであることを示していた。
震える声と共に、柔らかい感触が僕の身体を包む。
頬を伝わって、岬さんの涙が流れ落ちるのが分かった。もたれかかる身体は、妖狐のヨウコ僕の頬を伝わって、岬さんの涙が流れ落ちるのが分かった。もたれかかる身体は、妖狐のヨウコがじゃれついてくるときとは違って、人としての重みがある。