本来あって然るべき世界

文字数 446文字

(間に……合った?)
へい、いらっしゃい! 何にします? 焼きそば? お好み焼き?

 賑やかに立ち並ぶ屋台。

 アニメ系の音楽。

 軍の若い兵士たちは満面の笑顔を浮かべて、出店の焼きそばなんかを子どもたちに振る舞っている。

……。
……。
 その帝国陸軍記念公園の隅っこに、岬さんは向坂と見つめ合って立っていた。そこに、僕は割り込むようにして駆け込んだ。
あれ? 浅賀君、どうして?
ああ、間に合ったから、僕。
間に合ったって?

 よく晴れた朝の光が、眩しく降り注ぐ。地球の裏側ではまだ、血で血を洗う内戦が続いているが、その影響は日本まで及んでいない。

 夜半までのは、世界戦争勃発かとまで危ぶまれるほどの情勢だった。ところが事態は急転直下、関係国の会合が急遽、執り行われた。

(そうだ……。ミサイルでの物騒な脅しは撤回されたし、日本も当面の派兵は回避できたんだっけ)
 薄氷の平和と言えなくもないが、一般庶民がつまらない諍いのとばっちりで命を落としたり離れ離れになったり、人生を狂わされたりするよりはよっぽどマシだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色