残された謎

文字数 567文字

(何で、尻尾を出していないヨウコが岬さんには見えたんだ?)

 変身が不十分で尻尾が出ていると、ヨウコの姿は人に見られてしまう。実家に帰ったときなどは、一瞬ではあるが、我を忘れて泣いているときの姿をオフクロに見られてしまった。

 ヨウコが自分から人前で姿を見せたのは、コンビニのバイトをしていた僕にタカろうとしたときだ。その時を除いては、誰からも見られていないはずである。

 それなのに、岬さんには神社で姿が見えた。図書館では、僕にべったりくっついていたヨウコが見えなかったはずなのに。

 さらに、バイトをクビになったことはオフクロには聞こえなかったはずなのに、岬さんには聞こえていた。


(何で、向坂さんは岬さんの前から消えたんだ?)

(何で、向坂さんは岬さんのところへたどりつけなかったんだ?)

 神社まで岬さんを追いかけてきた向坂さんは、僕たちの眼の前から一瞬で消えた。

 ミサイルの暴発事故のときも、同じことが起こったという。向坂さんに言わせれば、「知らないうちにとんでもない所にいたり、どれだけ走っても同じところをぐるぐる回ってたり」したらしい。

(僕が倒れたとき家まで運んだのは、ヨウコでなかったらいったい誰だ?)

 ヨウコは回るものなら地球さえも逆転させる。狐仲間と組んで、電波も混戦させられる。しかし、瞬間移動なんてものはやったことがない。

 

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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