邪な気持ちには天罰が下る

文字数 457文字

 そんな僕の考えを読んだかのように、ヨウコは自分に都合の悪い話を元に戻した。
 もしかすると、本当に読めるのかもしれないが。
相当焦ってるね、向こうも。
 僕の存在は、たぶん向こうには知られていない。岬さんだって話す義理もないだろうし、話したところで、金もヒマもない高校生など問題にもされないだろう。
 それだけに、この話にはやっぱり触れてほしくなかった。
ちょっと黙って。
 言いはしたが、怒ってはいない。これも、いつものことだ。慣れてもいるし、この手のリアクションが実をいうと楽しみだったりもする。
 だが、その邪な気持ちへの天罰はしっかりと、岬さんの口を借りて下った。
ごめん。
いや、君にじゃなくて。

 胸がうずく。

 笑顔で謝るのを、こっちも笑ってごまかした。だが、「仏の顔も日に三度」という。岬は僕にとっては特別の存在だけど、神でも仏でもない。再度の許しを期待してはいけなかった。

ごめんね、考え事の邪魔して。
 妄想キャラに対する、精一杯の気遣いのようだった。それは仕方がない。自分の気持ちを伝えられない僕には、相応の報いだ。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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