意外なハードル

文字数 472文字

〈いつ、空いてますか?〉
〈来週の日曜〉
 返事は早かったが、他の休日は向坂との予定が詰まっているということだろう。
電話はしないの?
 こっちの質問には答えなかったヨウコがメール画面を覗き込んで、人のやることに口を挟んできた。
番号聞いてないから。
人がせっかく……。 
 男女間の電話とメールにどれだけのハードル差があるか、狐には分からなくても仕方がない。大げさなためいきと共に恩を着せてくる。
狐だろ。
知らない!
 一方的な親切を途中で遮ると、ヨウコはぷうっと膨れてそっぽを向いた。それには構わず、岬さんにメールを送る。
〈バイト空けてみます〉
 そこですかさず電話した先は、バイト先の店長だ。
来週の日曜、休みが欲しいんですけど。
シフト入れたのお前だろ。
 間髪入れずに、もっともな一言が返ってきた。もちろん、そんなことは分かっている。
代わってもらいます。
僕も即座に答えたが、店長の反応は冷ややかだった。
誰と?
……やってみます。
 短いが、いちいちもっともな返答に、僕はいささか腰砕けになって電話を切った。いつのまにか側にきていたヨウコが、心配そうに見つめていた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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