僕は彼女に追いつけない

文字数 422文字

(ヨウコ……?)
 どんな目で見られているか、気になった。でも、ここまで言った以上、岬さんから目をそらすわけにはいかない。
待って……バス、来た。
 実家よりも更に山奥から下りてきたバスのヘッドライトが2つ、すぐ目の前に迫っていた。僕たちのすぐ目の前で乗降口が開く。岬さんが先に乗り込んだ。
待ってよ……。
 僕の荷物は全部実家に置いてきてしまったけど、そんなこと構わない。後を追って、バスのステップに足をかける。でも、岬さんはそこから動かなかった。
ごめんね……私のために、バイト。
……!

 その言葉で、僕の足は止まった。

 実際には休めなかった。ここに来られたのは、身代わりになったヨウコのおかげなのだ。

 胸がズキンと痛んで、目の前でバスのドアが閉まる。

……。
 車内のぼんやりした照明を背にしてはいたが、岬さんが窓から僕をじっと見降ろしているのが分かる。
(どうして……追いかけられなかったんだろう?)

 苦しい息の中で、バスのテールランプが遠ざかっていった。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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