岬のもとには、たどり着けない

文字数 437文字

こんなことがあった日だから、休校は無理もない。だけど、そんなときにふらふら出歩くような子じゃないんだ。
(それは僕も同意見だけどね)
 だからこそ、用件も重大だったのだ。それは向坂も分かっていたことだろう。僕には絶対、言うわけがないが。
ただごとじゃないと思って、記念公園に行ってみた。
(そこからが……肝心!)
 いなければ、今朝の電話が中断されたのは何かの間違いということになるのだけれど、どうやら、そうではなかったようだ。
岬はいたよ。何か電話してた。
 その相手は僕だ。その時、何が起こったかというのが問題なのだ。
それで?
 気が付いたら、俺は記念公園から離れたところに停めた車の前にいた。
 全く動かない前の車に向けて、苛立たし気に車のハンドルを叩く。クラクションを鳴らさない辺りは、マナーと言うべきだろうか。
(いや、怒りの持って行き場がないだけか?)
昨日と同じだ、知らないうちにとんでもない所にいたり、どれだけ走っても同じところをぐるぐる回ってたり、まるで狐に化かされたみたいだ。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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